『効く薬』を使い続ける不安を解消!殺菌剤の「系統」で考えるローテーション防除の設計図(殺菌剤の系統擬人化)
「去年まで効いていた薬が、今年は効かなくなった」「なんとなく効く薬をよく使っているけど、このままで大丈夫だろうか」
こんにちはチーパパです。
現場で防除に取り組む農家の皆様、JA・資材店の皆様にとって、これは切実な悩みではないでしょうか。
殺菌剤が効かなくなる最大の原因は「耐性菌」の出現です。病原菌は、同じ作用機構を持つ薬剤に繰り返しさらされると、その薬剤を無効化する能力を獲得してしまいます。
しかし、耐性菌の出現は、決して防除の「失敗」ではありません。これは、病原菌が生き残るために進化する「仕組みとして起こるもの」なのです。
この耐性菌の出現を防ぎ、安定した防除体系を築くために不可欠な知識が、FRACコード(エフラックコード)です。
FRACコードとは
殺菌剤の作用機構(菌を殺す仕組み)を分類した国際的なコードです。
薬剤の「名前」ではなく、この「系統(作用機構)」で考えることこそが、耐性菌を出さないためのローテーション防除の土台となります。
本記事では、主要な殺菌剤の系統を、その特徴と耐性菌リスクの視点から分かりやすく解説します。それぞれの系統を人間に例えたイメージと合わせて、防除体系を「運」ではなく「設計」に変えるためのヒントをお届けします。
1:DMI剤(FRACグループ3)の特徴
DMI剤は、エルゴステロール合成阻害という作用機構を持ちます。エルゴステロールは病原菌の細胞膜を構成する重要な成分であり、これを阻害することで菌の成長を止めます。
この系統の大きな特徴は、浸透移行性があり、散布後に植物体内を移動するため、病気が発生した後でも効果が期待できる治療効果がある点です。
しかし、DMI剤は作用点が単一であるため、耐性菌が出やすい系統の一つです。特に注意すべきは交差耐性です。これは、あるDMI剤に耐性を持った菌は、他のDMI剤にも耐性を持つ可能性が高いという現象です。そのため、DMI剤同士を続けて使用する連用は厳禁とされています。
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特徴
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詳細
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作用機構
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エルゴステロール合成阻害
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効果
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浸透移行性、治療効果あり
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耐性菌リスク
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中〜高(交差耐性に注意)
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使用上の注意
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DMI剤同士の連用を避ける
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DMI剤のイメージ:体内に入り込んで、相手の防具を壊す賢い戦術家タイプ

2:QoI剤(FRACグループ11)の特徴
QoI剤は、菌の呼吸(エネルギー産生)を阻害するという、非常に強力な作用機構を持ちます。その即効性と高い効果から、多くの農家で頼りにされている系統です。
しかし、QoI剤は作用点が極めて単一であるため、耐性菌リスクが最も高い系統の一つとされています。一度耐性菌が出現すると、その効果は一気に失われてしまいます。
そのため、QoI剤は「切り札」として位置づけられ、1作(栽培期間)での使用回数が厳しく制限されています。多くの場合、1作1回使用が基本であり、予防的な散布が主体となります。
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特徴
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詳細
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作用機構
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呼吸阻害(エネルギー産生阻害)
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効果
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非常に強力、予防主体
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耐性菌リスク
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極めて高い
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使用上の注意
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1作1回使用が基本、連用厳禁
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QoI剤のイメージ:一撃必殺だが、すぐ研究される派手なストライカー

3:SDHI剤(FRACグループ7)の特徴
SDHI剤もQoI剤と同様に呼吸阻害の作用機構を持ちますが、菌の細胞内にあるコハク酸脱水素酵素(SDH)という、QoIとは異なる作用点を阻害します。
低薬量で高い効果を発揮し、幅広い病害に有効であるため、近年急速に普及しました。効率重視のエリート型と言えるでしょう。
SDHI剤の耐性菌リスクは中〜高と評価されており、QoI剤ほどではないものの、依存しすぎると耐性菌の出現を招く可能性があります。その高性能さゆえに「使いやすいから」と連用してしまうと、防除体系全体が崩壊するリスクがあるため、使用回数やローテーションには細心の注意が必要です。
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特徴
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詳細
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作用機構
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呼吸阻害(SDH阻害)
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効果
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低薬量で高い効果、幅広い病害に有効
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耐性菌リスク
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中〜高
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使用上の注意
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依存しすぎず、ローテーションを徹底する
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SDHI剤のイメージ:効率重視のエリート型、万能そうで使いすぎ注意

4:保護剤・多作用点接触活性剤(FRAC M系統)
FRAC M系統に分類される薬剤は、多作用点接触活性剤とも呼ばれ、病原菌の細胞内の複数の部位に同時に作用します。
この「多作用点」という仕組みこそが、この系統の最大の強みです。菌が複数の作用点すべてに対して耐性を獲得することは極めて難しいため、耐性菌がほぼ出ないとされています。
派手な治療効果は期待できませんが、散布された植物の表面で病原菌の侵入を防ぐ**「保護」の役割を担い、防除体系の基礎**として非常に重要です。2025年現在、高濃度散布による効果の再評価も進んでおり、その安定性が改めて注目されています。
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特徴
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詳細
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作用機構
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多作用点(複数の部位に作用)
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効果
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保護効果主体、耐性菌リスク極めて低い
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耐性菌リスク
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ほぼなし
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使用上の注意
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体系の基礎として、予防的に使用する
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保護剤のイメージ:派手さはないが、絶対に崩れないベテラン

5:注目の新規系統(FRAC 49・52・53)
近年、既存の薬剤に耐性を持った病害が増加する中で、FRAC 49、52、53といった新規系統の薬剤が次々と登場しています。
これらの薬剤は、既存剤とは全く異なる作用機構を持つため、既存剤に耐性を持った病害に対しても効果を発揮できる可能性が高いのが特徴です。
しかし、これらの新規系統も作用点が単一であるものが多く、将来的な耐性菌リスクはゼロではありません。そのため、QoI剤などと同様に、基本は1作1回使用とし、防除体系の“切り札”や“最終兵器”として位置づけることが推奨されています。
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特徴
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詳細
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作用機構
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既存剤と異なる新規作用点
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効果
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既存剤耐性菌にも有効
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耐性菌リスク
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将来的に発生の可能性あり
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使用上の注意
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体系の「切り札」として温存する
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新規系統のイメージ:登場したばかりの最終兵器・守護神

殺菌剤ローテーションは「野球のピッチャー継投」で考える
ここまで各系統の特徴を見てきましたが、これらをどのように組み合わせて使えば良いのでしょうか。
殺菌剤のローテーション防除は、「野球のピッチャー継投」に例えると非常に分かりやすいです。
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系統
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役割(ピッチャーのポジション)
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理由
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FRAC M系統(保護剤)
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先発投手
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安定感があり、耐性菌リスクが低いため、防除体系の土台として最初に、そして継続的に使用する。
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DMI剤(FRAC 3)
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セットアッパー
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浸透移行性や治療効果があり、病気が見え始めた時にピンポイントで投入する。連投(連用)は避ける。
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SDHI剤(FRAC 7)
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セットアッパー
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高性能で幅広い病害に有効だが、使いすぎると耐性菌リスクが高まるため、DMI剤と交互に使う。
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QoI剤(FRAC 11)
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クローザー(抑え)
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一撃必殺の強力な効果を持つが、耐性菌リスクが極めて高いため、最も重要な局面で1回だけ投入する。
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新規系統(FRAC 49, 52, 53)
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守護神
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既存の薬が効かない、あるいは耐性菌の懸念がある場合に、最後の切り札として温存する。
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「同じ投手の連投」は、肩を壊す原因になるだけでなく、相手チーム(病原菌)に球筋を読まれ、打ち崩される(耐性菌を招く)ことにつながります。
防除も全く同じです。同じ系統の薬剤を連用することは、病原菌に「この薬はこう対処すればいい」というヒントを与え、耐性菌の出現を早めてしまうのです。
最後に:防除を“運”から“設計”に変える
大切なのは、「強い薬を持っていること」よりも、「系統を理解し、使い分けられること」です。
系統の知識を持つことで、あなたは目の前の病害に対して、どの系統の薬剤を、どのタイミングで、何回まで使うべきかという明確な設計図を描くことができます。
この系統理解こそが、あなたの防除を「運任せ」から、再現性の高い「設計」へと変える、最も重要な技術となります!
殺菌剤をうまく使い、美味しい作物を作りましょう!!
参考資料
・FRAC


